水泳部の部室でロックンロール
女性にもてたいと始めたギターだったが、そうした不心得な気持ちとは別にさらに自己主張の虫が動き出した。コードをジャランと弾くのも良いし、クラシックギターで旋律を弾くのも良いが、もっと自己主張するためにはエレキギターだという結論になった。とにかくでかい音で弾くとスカッとするし、さらにエレキギターを弾くと女性に注目されるに違いない。エレキギターのイメージは小学生の頃からあった。当時はベンチャーズというエレキバンドが流行り始めた時期だった。校庭で掃除ぼうきをギターに見立てて、友だちとバンドごっこをしていた。いわゆるテケテケテケというリフが何とも言えずかっこ良かった。しかしエレキギターを弾くのに2つの問題があった。
一つは経済的な問題だった。当時何とか小遣いをかき集めてフォークギターを買った私にとって、これ以上の出費は困難だった。当時のエレキギターの価格は高級電化製品並みであった。さらに仮にエレキギターが買えたとしても、どこで弾くか、親の了解をどう得るかは次の重要な問題だった。当時エレキギターを弾く奴は不良と思われていた。バイクで爆音を出すのとエレキの大爆音は同意語だったようだ。しかしこの2つの問題を解決した奴がいた。学校校舎から離れたプールのそばに水泳部の部室があった。しかも部室はプールの地下にあった。水泳部員である彼は親にエレキギターを買ってもらい、地下の防音効果のある部室にたてこもり、大音響でロックンロールを始めたのだった。ある期間私を含め多くのメンバーがそこに集結し大音響を楽しんだ。しばらくして大音響は教師の知るところとなり、水泳部室からエレキギターは消えた。
