ファミリーな昔の会社
私が入社した頃は、会社というものは自分の家のようなものだという感覚があった。会社は社員の将来設計を親身になって応援してくれたし、定年まで会社に勤める前提での種々の福利厚生施策がほどこされていた。例えば制服の無償支給や会社食堂における社食代補助などがあったし、車・住宅などの高額品の購入目的に対する高い利率の社内貯蓄制度もあった。また昔は社員の退職金は会社が個人の資産運用をして増やしてくれたので、社員は多くの退職金がもらえるのを期待し会社への貢献を誓った。年始年末には職場全体で一杯飲みを行い士気を高めた。また社員は会社の家族同様であるので、会社は種々のイベントを用意してくれた。娯楽の少ない時代だったが、プロ野球観戦、漫才鑑賞、遊園地ツアーなどの家族全員で楽しめるような催しに対して格安のチケットを取ってくれた。また社内では野球大会、バレーボール大会、テニス大会、運動会、お誕生日会などのイベントが開催され、親交を温める場としての一役を担っていた。こうしたことから、社員は会社に忠誠を尽くし、会社が窮地に陥った時には全員で解決のための努力を惜しまないという文化が醸成されていた。私も会社が生産不調や災害に見舞われた際には、何日も何日も徹夜でトラブル復帰にあたった。大雪の日も台風の最中も「会社のために出勤する」ことは一種の錦の御旗であった。多分他の多くの日本の企業がそうだっただろう。しかしいつしか会社への忠誠心は失われ、年功序列が見直されることで同じ会社で永く働く価値が変化していくようになる中、社員は自然と会社と一線を画すようになった。
