出張帰りの楽しみ

 昔の出張には楽しみがあった。入社後ある製品の製造開発に担当したが、この製品を販売するための出張に出かけることがあった。私は製造の立場なので、物を売ったり宣伝に行くことはなかったが、たまには客先の話を聞くのも大事だろうと営業や開発のメンバーにお供させてもらった。客先に行くと上品な物言いをしないといけないとか、守衛所で会社名を名乗って面談相手へ連絡を取ってもらうとか、相手の会社のことを御社と呼び自分の会社のことを弊社と呼ぶなど出張に関するビジネスの基本的な事項を学ぶことができた。担当していた製品はすでに同業他社も参入しており、何か客先にアピールするものがないとなかなか販売に結びつかないような感じだった。特に開発を開始してからの数年は販売が増えず、製造ラインは動いたり止まったりしていた。(しかし30年後には販売量はその1500倍になるのだが・・)客先の東京本社に販売促進に行った時は、帰りは新幹線の中でビールを飲んでうさ晴らしをした。話は製品の話から、相手の担当者の話へ、そして段々と日頃の仕事の問題などへ飛ぶこともあった。よく見ると横で飲んでいる他社のサラリーマンも似たような話題で盛り上がっておりどこも同じだと感じた。しかしこの一杯のビールでどんなにつらい出張も我慢できたのは事実だった。この頃にアサヒスーパードライが発明された。このビールは突拍子もなくうまいと皆で絶賛したのを覚えている。また本社でなく、地方の工場を訪れる時も違う楽しみがあった。場合によっては出張帰りに温泉へ立ち寄り、うさ晴らしにストリップへ行って発散することもあった。こうしたビジネスが順調に進む前段階の経験をさせてもらったのは幸運だった。

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