水害の経験1
40年近いサラリーマン時代の経験として最も心に残ったものは何かと問われれば、私は工場を襲った水害を挙げるのではないかと思う。1990年9月の台風19号による水害は鮮烈な印象を私の頭の中に残した。その日は前日から台風直撃の連絡が入っており、工場メンバーは早々に一時帰宅を行い、仮眠を取ってから夕方に工場へ集まった。朝の時点では、台風はほぼ工場直撃のコースをたどっていたが、夕方時点では台風はやや角度を変え、工場の西側を通過するという予想となっていた。台風はどちら側を通過するかで、雨台風になったり風台風になったりする。通常心配するのは風台風で、突風により電線が揺れて停電になる恐れがあった。しかしこの時の台風は工場の西側を通過しており雨台風と予想され、皆は雨量が多くなるだけで大きな問題は出ないと考えていた。
その後最も台風が工場に接近する夕方になっても台風の風速はそれほど強くならず、多くのメンバーはもう大丈夫かと思うようになっていた。しかし雨だけは午後3時頃からずっと降り続いていた。工場の横には一級河川が流れているが、夕方にサイレンが鳴りダムの放流を行うので近づかないようにという警報が出された。そして普段は川底が見えるぐらいの川は、夜半には工場近くの橋から顔が写るぐらいまで増水していた。午後勤務の人が帰って夜勤時間帯に皆で待機していたら、川の堤防が切れて工場に水が浸入しているとの連絡を受けた。何はともあれまず自分たちの車を移動させようと走ったが、すでにきつい流れの水がひざ下まで来ており建物へ逃げ込むしかなかった。
