自分で考える
50代前半に新たな上司に仕えることになった。それまで私はずっと同じ村?の中で生活をしていたので、上司も同じ村のしきたりに沿って同じ思想を受け継ぐ人がなっていた。しかし全く異なる思想や歴史を持った上司が来ることになった。おそらく私の属するビジネスユニットでも初めての経験だった。しばらくの間その上司は私たちのやり方を黙って見ておられたが、事業の成績が下降するにしたがい、少しずつ経営に介入されるようになった。世間ではリーマンショックの真っただ中で、あらゆる常識が見直されることになった。そうした中で製造部門トップの私の考えに上司は我慢ならなかったのだろうが、まず全体に対して宣言されたのは「自分の頭で考えろ!」という言葉だった。この言葉が上司から最初に提示された時、私を含めてほとんどのメンバーが正確に理解できていなかった。皆言われるまでもなく自分の頭で考えて行動をしていたつもりでいた。ところが上司の目は鋭かった。例えば全体の方針はどうやって決めているかと言えば、自分が正しいと思うことをやっているわけではなく、知らぬ間にトップの顔色を見て彼らが正しいという方向で決めていたのではないか、例えば新たなシステムや技術を開発するのに自分が一から勉強して作り上げたものではなく、誰か機械に長けた人に意見を求めるだけで、自分自身で考えるという基本的なことを忘れてしまっていたのではないか、等々自分がしっかりした意見を持たずに行動していたことを客観的に喝破され厳しくしごかれた。しかしその経験はその後海外で役に立った。「私はこういう考えでやっている」と堂々と皆に言えた。
