歩くと気が晴れる
プレッシャーの強い仕事に就くようになってから、やたら外を歩く癖がついた。ただ黙々と歩いていると、段々頭にまとわりつく嫌な気持ちが離れ、心が無になっていく自分を感じることができた。これが机の前でじっと座って考えているとより嫌な気持ちが増してくるし、気分を変えようと喫茶店でコーヒーを飲んで気持ちを抑えようとしてもなかなかこうした気持ちを消すことができない時がある。歩くとまず見えてくるのは自然の景色だ。自然の景色は最高の絵画のようで、時期や時刻によって見え方が変わる。時には何とこんなに美しい景色が身近にあったのだろうかと驚いてしまう事もある。そして自然の景色の恩恵に慣れてくると、次は鳥の声や川の流れが作る音が聞こえてくる。さらには心地よい風や冷たい雪が肌に触れるとまた違う感覚が生まれてくる。こうして六感で感じる色々な新たな体験が入ってきて、知らぬ間に先ほどまで心を覆っていた嫌な感情を忘れてしまう。また風景は自然だけでない。すれ違う人々も良い風景だ。個性たっぷりの犬を連れて散歩を楽しんでいる人がいる。体を鍛えようとジョギングやランニングをしている人がいる。早朝だと一人一人に挨拶しながら通る礼儀正しい女性に会うことがある。またこれから出勤なのだろうか、難しい顔をして足早に歩く中年男性がいる。ああ自分もああいう顔をして会社に通っていたのだろうかと思ってしまう。こうした散歩がどのくらい仕事のプレッシャーから離れるために役に立ったかは言い尽くせないぐらいだ。そしてこの癖は会社を離れてからも、自分の人生を見つめなおす際のツールとして毎日活用している。
