気がついたら前に誰もいない
あるビジネス部門のトップになったが、よく人からトップの気構えについて質問を受けた。その時に必ず言う言葉があった。それは「トップになるというのは前に誰もいなくなる状態」ということだ。トップになる前と後ではしゃべり方が変わると言われるが、最も違う点は「XXXであると考えるべきだ」とか「〇〇の方向に進んでいる」という言い方から、「XXXで進めたいと思っている」とか「△△であるより〇〇の方がXXの理由で良いと思っている」というしゃべり方になる。要はそれまでは自分より前に誰かがいて、いざという時には相談を行ったり指示を受けたりすることができたのが、ある日を境にすべて「私はこう考えている」ということを言わないといけなくなるという事だ。例えば道順を示していない山道を歩くことを想像してみると良い。それまでは分かれ道にさしかかった時に、皆で相談して行く方向を決めるか、リーダーの人がある見識を示してこれで行こうと決めてくれた。しかしトップになると、前に誰もいないことに気がつく。さらに後ろを振り返ると、多くの人が、私がどんな判断をしようとしているのかを固唾をのんで待っている。それを見ると自分がどんな判断をすべきかについて大変なプレッシャーがかかる。この前に誰もいない状態を初めて経験した時は、責任感でしばらく自分の下した判断の良し悪しについて不安でどうしようもない数日や数夜を過ごすことがあった。しかしそのうちそういうものを連続的に経験することにより、慣れが人間を図太くするようだ。そして傍目から見ると、そういう姿を堂々としていると感じるのだと思う。しかし内心はびくびく。
