私はできない畑仕事
退職後皆に最も人気のある仕事の一つが畑仕事だ。多くの人が自分の庭や畑で少しばかりの野菜を植えて季節の収穫を楽しむ。ところが私はこの畑仕事が全く性に合わなかった。子供の頃から野山を走り回って、動植物に慣れ親しんだので、畑に出ること自体全く抵抗はなかったが、どうも育てて大きくすることにやや抵抗があった。思えば子供ができた時も、子供の笑う顔はかわいいと思ったが、泣き出すとどうしていいのかわからず、もう子供なんか欲しくないと思ったものだった。会社ではものづくりをして原料を加工して最終製品にしていたのに、自分の子供を成長させて一人前に育て上げるというプロセスは全く苦手だった。おそらく奥さんがいなければとてもできなかったと思う。同様に野菜や果物を育てるのもこれに近い感覚で、苦手意識がでてしまうようだ。時々家庭菜園をしている人が「どうぞ自宅で取れた野菜ですので皆さんで食べて下さい」と職場の人に配るのを見ると羨ましいと思うと同時に、私ではとてもあそこまで立派な野菜を育てる自信はないなあと思うのであった。そして知らぬ間に、畑仕事のようなものは私の美学に合わないなどとうそぶくようになってしまった。同様な意識が食事を作る場合にも感じる。生まれてこのかた、食べ物を調理することはほとんどしたことがなかった。海外で一人暮らしをした時も、自分で加工するのはインスタントラーメンをゆがくか、冷凍食品を電子レンジで解凍するか、レトルトのカレーのルーを温めてチンしたごはんにかけるか、粉末のスープやみそ汁にお湯を注ぐぐらいだった。このレベルを越えると後は外食か、お惣菜を買うかしかなかった。
