新宿ピットイン

 大学生の頃ジャズ喫茶巡りに凝っていた。地元の京都ではほぼ1年中好みのジャズ喫茶店に入り浸っていたし、ふらふらと一人旅に出た時も、その土地のジャズ喫茶を探して街をさまよったものだった。そうしたジャズ喫茶の中でも有名な店で新宿ピットインという所があった。アメリカでは当時からブルーノートという有名な店があったが、日本でブルーノートの向こうを張る店と言えばこの新宿ピットインと言われていた。ここはいわゆるジャズライブハウスの走りの店で、当時で言えば日本の大御所の渡辺貞夫さんや日野照正さんなどが演奏したりすることで一気に有名になった。当時私は冬に北海道を数週間回って、帰りに青森から太平洋周りで上野経由して京都まで帰っていたが、東京で一泊してぶらぶらした。当然ジャズ喫茶も色々回ったが、一度有名な新宿ピットインにも行ってみることにした。青森からの夜行便は上野に早朝に就いたが、夜行列車の中ではあまり寝られなかった。その寝不足の状態で温かい喫茶店に入ると、コーヒーを飲みながらうつらうつらしてしまう事もよくあった。新宿ピットインはなかなか見つからなかった。今と違い1970年代後半から1980年代初めの新宿はまだ都市開発中のような感じで街並みも整理されておらず、あちらこちらに得体の知れない路地があった。ようやくピットインを見つけ中に入ったが、朝の11時からライブ演奏が行われていた。当時の私にはその演奏がうまいのか下手なのか判別はできなかった。無料だったので多分アマチュア演奏だったのだろう。こんな朝から演奏したい人が自由に演奏できる場所が東京にあるのだと驚いた。

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