Left aloneと映画キャバレー
栗本薫のハードボイルド小説にキャバレーというのがある。私はあまり栗本薫の小説は読まないが、このキャバレーだけは何度か読んだ。小説の概要は、あるジャズにのめり込んだ大学生の若者が真のジャズを知りたいと場末のキャバレーのバンドマンとして過ごすが、ある時やくざの代貸しをやっている男からLeft Aloneという曲をリクエストされ演奏するが、やくざの男より以前聞いた曲と何か違うと言われ深くジャズの道に入り込んでいく姿を描いた映画だった。そしてクライマックスはやくざの男が抗争事件の中で鉄砲玉として敵対する組へ突っ込んで打たれて亡くなる。話としてはそれだけだが、この映画はいくつかの感動を与えた。まず映画の全編に出てくるLeft Aloneという曲は、黒人ピアニストのマル・ウォルドンの書いた名曲だが、実際に旋律を吹くジャッキー・マクリーンというテナーサックス奏者の演奏が無茶苦茶かっこいい。確かに映画の中でも大学生の若者のサックスは素晴らしいが、あの何とも言えない憂鬱でやるせないようなジャッキーのテナーサックスの音を再現できるような奏者はほとんどいないと思ってしまう。それをジャズの事など知らないやくざ者の男が「あんたの演奏はどこかちがうんだよ」と言うと妙に納得してしまう。さらに昔のジャズの持つ麻薬とか場末とか退廃的とかいったイメージをこの映画は見後に見せてくれていて、大学生だった私もこの若者のようにジャズのかっこ良さを感じたものだった。そして多くのジャズマンが打たれたり麻薬中毒で亡くなったように、ジャズを愛するやくざ者が死ぬのもこの映画のかっこよさに花を添えている気がした。

マルウォルドンの名曲「Left alone」