現場の音、においが好きだった
昔からおやじに現場のすごさやかっこよさを聞いてきており、現場へ立ち入る時は何となく浮き浮きするような気分だった。毎回何の変哲もない風景と機械音があるだけなのだが、現場に足を踏み入れると何か新たな発見があるような予感を感じてしまった。体中の5感、特に耳と目が非常に敏感になり、今日は何か違いがないかと探した。現場には現場の独特の風景がある。例えば照明の一つが切れているだけでも、その風景の見え方は全く違う。生産状況が良い時と悪い時で、物の流れは全く違って見える。(どこかのビジネスユニットでは悪い状態を「もめる」と表現していたが)機械に何かの負荷がかかっていれば、機械は苦しそうな音を立てて「助けてくれ」と言っているように聞こえる。こんな経験を現場で1年ぐらいしていると何となく変化がわかるようになった。またこうした違いは機械や風景だけでない。現場で働く人の顔色は現場の生産状況と完全に一対一対応している。現場がうまく流れている時は製造現場のメンバーは明るい顔をして、会えば色々なアイデアについて話をしてくれたりする。一方現場が大荒れしている時は、製造現場の人は大汗をかきながら一刻も早く悪い状況から脱することができるように問題点の発見と対策を行っている。こんな時に声でも掛けようものなら、嫌味や悪態の一つ二つもかけられる。しかしそう言いながらも最後は問題を解決し笑顔に戻る。この笑顔を見るのが私の最高の安らぎになった。こうして現場は「変化を勉強する場」であり、「生産状況を人の喜怒哀楽から知る場」ともなった。そして現場を見る行動を約40年続けた。

現場の音を聞くのが好きだった