慣性のあるものを扱う仕事
我々の世界の中には、アクションを打ってもそれがすぐに効かず後からジワジワ効いてくるような現象がある。これを「慣性」と呼ぶ。例えば自動車であれば、ブレーキを踏むと即座に速度が下がるし、ハンドルを右に回すと即座に車は右に曲がる。ところが慣性のある物体を相手すると、なかなか即座に変化せず後から効くような場合がある。私は仕事でいわゆる「粘性流体」というものを扱っていたが、この粘性流体は「慣性」を持っている。例えばブレーキをかけても速度はゆっくりしか落ちていかず、目的とする速度まで落ちるとさらに下がり、いつまでたっても落ち着かないという問題があった。これを何かの計算で制御できれば良いが、残念ながらそういう技術も開発されていなかったためか、ほとんどの制御?は「現場の職人の経験と勘」で行われていた。しかし人間の勘とか経験は、時としてその人の気分によって変わることがある。その人の気分が良い時と腹を立てている時ではアクションの中味が変わることがあっても不思議でない。例えば精神的に落ち着いていない状態で一気にブレーキを踏むと、次は速度が落ちてもさらに慣性の変化で速度はさらに落ちていく。こうなると何とか速度を保とうと、次は大きくアクセルを踏むのでその後また速度が上がり過ぎ大混乱になってしまう。このように「思っているより行き過ぎのアクション」の為に現場の状況は2転3転を繰り返し、その間製造現場は右往左往することになる。私が入社した頃はこういう姿を何度も見た。その後少しは成長して「大きく変化させないようなソフト」を導入して人間の焦りを少しは抑えるようになったのだが・・・。

慣性の力に振り回される現場