井上陽水「傘がない」
高校生の頃にただで音楽家の演奏を見ることができる唯一の場所は近畿放送(今は京都テレビの放送部門?)の公開生放送だった。毎週この番組を見るためにバス代(多分当時片道70~80円?)を払って四条にある近畿放送のスタジオに出かけていた。ある日の公開放送で井上陽水という得体の知れないフォークシンガーがやってきた。ギター一本で自作の曲を演奏していたが、最初はあまり印象には残らなかったが、一曲だけ強烈なインパクトを与える曲があった。それが「傘がない」という曲だった。歌詞の内容は全くちゃらんぽらんな内容だった。「都会では自殺する若者が増えている」と一瞬世相を表す何かを彼は訴えるのかと思ったら、次の歌詞で「だけども問題は今日の雨、傘がない。いかなくちゃ、君に会いに行かなくちゃ、君の街にいかなくちゃ、傘がない」というものだった。世相の問題などどうでも良い、ただ俺は直面している雨で彼女に会いにいけないのだけを気にしているんだといういい加減な歌詞だった。にもかかわらずその曲はその後も私の耳から離れることはなかった。「いかなくちゃ、君に会いに行かなくちゃ、君の街にいかなくちゃ」という歌詞が何かのリフレインのように何度でも私の頭の中を回るようになってしまった。このレコードはひょっとして何かのサブリミナル効果があるのかと思うほどだった。かくしてその後私はレコード屋に無名の井上陽水という人のレコードを探して買い求める羽目になった。それから暫くして井上陽水はこのレコードで一世を風靡してフォークの四天王と呼ばれるようになった。畜生「いかなくちゃ」にやられた。買わなくちゃ。

1972年に出た井上陽水の「傘がない」まだ京都では無名だった。