ボスという呼び名

 マレーシアに赴任してすぐに違和感を覚える出来事にあった。それは彼らは私のことを「ボス」と呼ぶことだった。それは男性社員だけではなく、女性社員も同じだった。マレーシアは長らく英国が植民地支配をしてきたが、その時代の高圧的な支配が今も言葉上残っているのだろうかと思ってしまった。確かに外国映画などで上司のことをボスと呼ぶのは知っている。また「太陽に吠えろ」で部下の刑事が上司の石原裕次郎扮する係長に向かってボスと呼んでいるのは知っていた。しかし一般的な会社でボスと呼ぶのは少なくとも日本の職場では経験がなかったし、何か少し照れくさいような気がした。そこでマレーシアメンバーを前にしてこのボスという呼称について説明した。皆さんは私のことをボスと呼んでくれる。これ自体は敬意を込めて呼んでくれていると思うので嬉しく思う。しかしボスという言葉は日本ではややネガティブな意味を含んでいる。例えばボスというのは恐ろしいギャングスタ―の中でその頂点に君臨する人の事を意味する。またボスと呼ばれる人のイメージは「剛腕」であり「やり手」であり「有無を言わさぬ人」というイメージがある。少なくとも私はこうした人間ではないし、皆さんに対してはそういうふうに接していきたくないと説明した。どうやらその説明は非常に良く理解されたようで、以後そう呼ばれることはなかった。しかしマレーシア滞在5年目の最終年度を迎えた頃、メンバーの中で私をボスと呼ぶ人間が現れるようになった。その頃マレーシア工場は長年の皆の努力で会社全体のドル箱に成長していたし、私は一時だがその頂点に君臨していた。

ボスと呼ばれるのに抵抗があったマレーシア時代

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