歴史は繰り返す
人件費というのは物づくりにおいて決して軽んじるべきでない重要な要素だ。私は重厚長大の昔風な大規模工場で働いていたので、人件費というのは総費用の10%ぐらいだったと思うが、これが手作業で行う芸術品の作成なら半分以上が人件費ということもあるだろう。したがって昔から「一般的な製品は人件費の安い国へ流れていく」のが常となっている。日本は1960年代ぐらいから高度成長期に入り、1990年代前半ぐらいまでJapan as No.1と言われるぐらいの工業国に成長した。この間為替も味方して日本製品は昔の「安かろう&悪かろう」から価格と品質で世界を凌駕する国に上り詰めた。この時代すべての日本人が文字通り世界一を心から感じていたと思う。しかし現実には1980年代後半からNiesと呼ばれる新興工業国の台頭により日本製品はじわじわと競争力を弱めていくことになった。まず韓国が台頭し半導体などエレクトロニクスが抜かれ、各東南アジア諸国では日本に代わって安くものづくりをする国が増えていった。そして2000年代に入ると「眠れる獅子」中国の本格的な工業参入に至り、欧米諸国が脅威を感じるような強烈な成長が「中国独り勝ち」の様相を生むようになった。そしてこのように1国だけが勝つというのは世界が許さず、激しい競争力低下のための関税競争が起こっているのが現在である。まさに「歴史は繰り返す」ということだろう。そしてこの先もどういう構図になるかが容易に予想されている。まず現在先進国や中国を猛追しているインドが2030年代には大きな脅威になるだろうし、その後には「未開の地」であったアフリカが商売とものづくりの土地に変貌するのだろう。

汎用工業製品の生産地は人件費の安い地域へ移る