すぐにジャズを歌ったうちの歌手

 私のように楽器演奏をする人間はジャズを演奏するとなれば最低限いくつかの知識と技能を準備しないといけない。例えばリズムはどうなのか、速さはどうなのか、キーは何か、そしてアドリブを弾く場合には、どういうコード進行でどのあたりで盛り上がりになるかなどの大体の流れの理解が必要になる。またムード歌謡のような単純な旋律ではなくジャズらしく聞こえるようなフレーズを合間合間に組み入れるような作戦も立てないといけない。プロはそれを瞬時に頭の中で閃いてそれを楽器でアウトプットすることができるが、我々素人は事前にある程度お膳立てしておいたフレーズを使ってそれらしく演奏することになる。こういう準備をするのでジャズは少し勉強しないと始められないという思いがあった。ある時ジャズバンドで歌版をやろうという事になったが、残念ながらジャズボーカルの経験者がその場にいなかった。仕方ないのでポップスしか歌ったことのない人に歌ってみてくれないというお願いをした。すると何のことはない彼(あるいは彼女)はさらっとジャズ曲をそれらしく歌ってくれた。彼に「初めて歌うにしてはうまいなあ。ジャズを歌ったことがあるのか?」と聞くと、「いや初めてや」と言う。よくよく聞くと、ボーカルをやる人種?というのは器用で、「この曲はジャズなので、少しお洒落目に歌い、少しこの部分で感情を込めて、そしてバックバンドと楽しそうにしているフリをして、そして4ビートのリズムに乗って指を鳴らして見せればいいだけじゃない」ということを瞬時にわかるようである。急造のジャズボーカリストが誕生した瞬間だった。

ボーカルというのはどんなジャンルも「それらしく」歌えるらしい?

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