労働災害の加害者になった日1
労働災害の中で特別な思い入れがある事件がある。それは私自身が人を怪我させた事件で、言うなれば私が労働災害の加害者になってしまった事件だった。当時私は30代後半で工場労働者としては最も脂が乗りきっていた頃であった。ある時作業応援で上流工程の仕事に借りだされた。そこでは高温の職場で大ハンマーと呼ばれるハンマーを使って異物を割って取り除く作業が行われていた。テコ棒という先が尖った金属製の棒を異物に当てて、反対側の先端に大ハンマーを当てることで、異物を少しずつ割っていくという作業だった。この仕事は2人一組で行われるが、テコ棒を前の人が支え、後方からもう一人の人がテコ棒をたたくという作業形態になっていた。大ハンマーは重く疲れるので、ハンマー作業は前後の作業を交代しながら行っていた。高温の作業場で体力は限界にきていた私は大ハンマーを振る作業でうっかりテコ棒に当てずにすかしてしまい空振りをした。その瞬間に前でテコ棒を持っていた相方の仲間がゆっくりと前のめりに倒れていくのが見えた。その瞬間に私は何が起こったかを理解した。どうやら大ハンマーを相方の頭に当ててしまったようだ。すぐに私は近くにいた上司に事態の報告を行ったが、それを聞いた上司はすぐさま救急車を呼ぶよう指令した。救急車が来ると、私は担架で運ばれた相方と一緒に乗り込み病院へ向かった。救急車にはもう一人相方の奥さんが乗り込んでこられた。一言謝って後は奥さんの顔を見ることもできなかった。相方はただ頭を押さえてうめいているだけでどうなってしまうのかと思った。ともかく酷い状況になっていない事だけを祈った。

大ハンマーで同僚に怪我をさせてしまった