ライブパフォーマンスに凝った
卒業と同時に学生時代に好きだった音楽とはおさらばと思っていたが、ひょっとした縁で会社でもバンドを組むことになった。その頃の私は音楽に関して頑固一徹で、音楽たるやこうあるべしという考えを持っていた。その考えは基本はすくなくとも人前で演奏するならそこそこ高いレベルの演奏技術がなければならないということだった。ところが一緒にバンドを始めたTさんの話は私の考えを真っ向から否定するものだった。「アマチュアバンドがうけようと思ったらまずかっこうから」とお揃いのステージ衣装を要求した。おいおい高校球児のユニフォームか?とも思ったが、ちょっと興味もあったので一口乗ってみることにした。そのうち演奏がそこそこできるようになると、Tさんは「振り付け」を要求した。ともかくアマチュアバンドなんだから、観客の目を惹こうと思ったら、まずは見た感じやというわけだ。確かに皆が思い思いにばらばらに体を動かしている演奏と、全員が同じ方向に一糸乱れずに振り付けに沿って動いている演奏のどちらが良いかは一目瞭然だった。このバンドは全員がバンド経験者ではなく、全くの素人から入って来た者が半分いた。こうしたメンバーにとって、振り付けとかステージ衣装というのはむしろスムーズに受け入れられた。毎日毎日どんどんステージのパフォーマンスに凝っていった。こんな事は中学生時代に運動会の予行練習をして以来かと思うほどだった。この路線は多くの企業バンドが集まる「企業戦士ライブ」の中で注目を浴びた。ほとんどのバンドが腕や技術を見せつける中、我々は華やかさと笑いで完全に他のバンドに差をつけた。

ライブパフォーマンスに命をかけた会社員時代のバンド