Tさんは相変わらずがんばっていた

 現役のTさんと久しぶりに会食をしたが、全体の会社の状況以外に彼自身の仕事の事についても聞かせてもらった。もうすでに彼も60才の定年退職は過ぎており、延長の残り数年の仕事を残すのみとなっていたが、相変わらず会社のために自分が勤めている間は最後の最後まで貢献しようとされているのを聞いて嬉しくなった。普通なら定年退職年齢前後になると一般サラリーマンは「一丁上がり」となって前向きに会社のために仕事をする気力を失う人が多いが、Tさんはさすが私が片腕と見込んだだけはあり、いつまでも気力・体力が衰えないのは素晴らしいことだと思った。彼が担当していたのはある商品の加工技術に関するものであった。思えばこの技術は私が20代から30代にかけて試行錯誤をしながら積み上げてきたものでもあった。私が入社した時にある商品の加工方法として2つの方式が知られていた。一つの方法は欧米などで広く普及していたが、我々が行うと何故かうまくいかなかった。そして最終的にもう一つの違う方式にしてその後その方式を開発していった。この方法で何とか世界で戦うレベルまで技術を上げることはできた。一方欧米の会社は我々と違う方式を継続していた。欧米の会社買収により改めてこの技術をもう一度進めてみるよう話が出たようで、Tさんは欧米チームの力も借りながらこの方式を日本国内に定着させる事に成功したそうだ。思えば私が27才で撤退した技術を私が会社を離れた67才で成功させた事になる。実にこの40年という時代の間に、同じ商品を生産するために日本、欧米の異なる技術のバックグランドで技術者が苦闘していたのだ。

若い頃のTさん

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