かくれフォークソングファン
こうして町内会で出会ったメンバーであったが、かつてそれぞれが演っていた音楽路線は異なるものだった。Sさんはジャズスクールで理論を学び、またオーディオにうるさかった。UさんとCさんはフュージョン系バンドで一緒に演奏した仲だったが、リズムと音色づくりにうるさかった。歌謡曲バンドでは私はギターを弾いたが、フュージョンだったら全く太刀打ちできなかったと思う。そんな音楽に一家言ありそうなメンバーがそろっているが、あまり音づくりに関する難しい話はしなかった。これが20代なら音楽に対する喧々諤々の議論があるだろうし、うまくなるため間違わないための議論をしていると思うが、そこはアラフォーメンバーの集まりでそうしたこだわりは捨てている。私自身は何度も書いた通りブルースが大好きでその流れでジャズにはまっていたのが、会社バンドでどんな音楽も楽しめるようになり、町内会バンドでは今や何でも来いというふうに変わってしまった。そういう中でTさんが時々皆を同じ世界に引きずり込んだ。普段バンドでは楽器を持たないボーカル担当の彼だが、バンド練習後の宴会ではよくギターを持ってしんみりしたフォークソングを歌った。フォークソングがはやったのは私の中学高校時代だから、バンドメンバーもその当時によく聞いていたのだろう。Tさんが歌うと皆が昔を思い出すかのように何かを合わせ始める。いつもは我が道を行くCさんがやけに小さな声でハモる。またUさんのくちびるがかすかに動いている。実はUさんも青春の思い出を心に持つかくれフォークソングファンであるのをその時私は見逃さなかった。
